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「権限と責任が一致していないんじゃないかと思うんや」
人材育成で関与しているクライアントの
人材育成担当役員の方とお話しました。

「秋の研修で、あれだけ 『主体性ってすごい!』 って
皆、感動していたのに、あれから3ケ月経過して、
現場では主体性が全く見られない…。」
その理由が冒頭のご発言。

その後も、「評価制度が不足しているのではないか」とか、
「観察分析判断シートが悪いのではないか」とか、
そもそも採用に力を入れてこなかったからとか、
色々な意見が出ました。
どれもこれも間違っていないと思います。

主体性ほど、改善のきっかけをつかみにくく、
指導しにくい概念は他には見当たらないでしょう。
でも、だからこそ、取り組む意義もあるのですが。

この症状は現代日本人の大多数が陥っていることであり、
自社の社員だけが特別に悪いわけではない、
という捉え方をすると、
この問題(主体性の欠如、若しくは不足)に対する、
打ち手を考えることが出来るのではないかと思うのです。
なぜなら、社員はそれほど不真面目ではない。
むしろ、与えられた環境の中で
もがき苦しんでいる人が大多数である、
と見ているからです。
それが、これまでに500名以上の色々な企業の幹部社員、
期待された若い社員の方々と過ごしてきた時間の中で、
今の僕が持っている帰結です。

その原因を心理学的側面から研究している社会学者の方が昨今増えています。
非常に興味深い論考もたくさん出ています。
経営者の方々には、ご自分の想いは大事にしながらも、
逆の視点からもこの現象を冷静に眺めていただきたいと考えることが、
最近増えてきました。

最近の潮流として、「範囲限定理論」というモノがあります。
それは多くの日本人が、無意識に「この範囲の中で」という
限定の中で幼少期から成人期を過ごしていることが、
その人の主体性を損なっている、
という研究です。
「素直な新入社員」が増えていませんか?
実はそれが主体性を損ねている事の
反対現象であるという研究成果があります。
なぜなら、「言われたことを素直にやる」というのは、
別にそれを「やりたい」からではないからです。
他人から言われた事を素直にやるのは、
「やりたくないこと」が明確でないことの結果に過ぎない、
という見方です。
親も学校の先生も、自分の子供が素直に言うことを聞くと言うことを、
無意識のうちに肯定してきました。
結果、失敗しそうなことには手を出さない、
「言われた範囲の中でそれなりにやる」ということが
当たり前になってしまっているのです。

従って、このことを変えていくためには、個人を責めるのではなく、
前向きな失敗を許容する企業文化を根気強く育んで行くことが必要
なのです。
キャパ以上の課題を社長がバンバン与えて、
こぼれ続ける成果を片っ端から社長が拾い続ける。
それに慣れてしまった社員は、頭では分かっていても、
行動はできないまま、見下されていく。
「社長が指示を出してくれる。最後は社長がなんとかしてくれる…。」
この主体性と真逆の思考の癖は、簡単には取り除くことはできません。
それは、幼少から成人になるまで、
無意識のうちに植えつけられたプログラムなのです。
失敗しそうなレベルのことをあえて任せてみる。
そして失敗したら、その責任を一緒にかぶってあげる。
そんなことがひょっとしたら効果的なのかもしれません。
ただ、企業は利益集団なので限界はあると思いますが。
そんなことを、いつも考えています。
では、また。

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